Shannon の多様度指数

Shannon's H'

  大学で群集生態学を学びたいと考え、そのターゲットとして海域の底生生物を選択し、 小坂昌也教授の研究室に入ったまでは良かったのですが、 最大の難関は出現種の同定でした><
  それまでの小坂研ではフジツボは扱うけど、ほかのものはほとんどまったく ^^;  かろうじて護岸に付着したカサネカンザシ類やイガイ類などを見る程度で、 二次性群集の組成など夢のまた夢。 ぼくらの代からアサリも材料にしましたが、ハッキリ言ってこの年の研究は失敗でした。
  就職先にアセス系の会社を選んで独学でベントスの分類を学び、業務を通じての OJT の成果で今のぼくがあります。多くの方にお世話になりましたが、とりわけ、1996年のひと夏の間、 炎天下をぼくの勤務先までご足労頂いた元国立科学博物館の今島実先生には感謝の念が堪えません。 結局、ご恩返しできなかったなぁ、なんて思うと悔やまれてならない今日この頃です。

  多様度指数の計算は、群集生態学としてはかなり初歩の部類だと思いますが、 今ほどPCが普及していなかった1980年代〜1990年代前半には計算も一苦労でした。 当時の主流は MS Dos マシンで、Microsoft Multiplan から Lotus 1-2-3、 そこからさらに MS Windows と MS Excel への移行期でした。
  Simpson の λ はワークシート上での計算が容易で、 その逆数になる森下の β は数値として収まりが良いので、 どちらも報告書でよく利用しました。表題の Shannon の H' は、MS Excel(たぶん ver.4.0 か 5.0) へ移行するまで、ほとんど使ったことがなかったと思います。
  当時、多様度指数は何が適切か、なんて模索も底生生物を扱った業務の中でいくつか担当しました。 そんな状況で H' が面白い、というのは自然な流れだったかもしれません。 問合せがあれば積極的に H' を奨めるようになりました。ひと世代上の社員が Multiplan や1-2-3 に頼り切っていて Excel への転換がまったく追い付いていなかった隙をついて、 ぼくはこの分野の業務で一気に社内のニッチを占めた経緯があります。 かなり opportunistic でしたw

  さて。
  この多様度指数に関しては、いくつかの表記が混在しています。国内に限って言えば、 京大派閥w は Shannon-Wiener(Whittaker 1970, 宝月 1974 84)、 それ以外は Shannon-Waever(木元 1976 63)の多様度指数で、後者がやや多いかな、 といった感ですが、何を参考にしたのか両者がミックスされたものも散見されます。
  一方、国外では圧倒的に前者が多く、Whittaker のすさまじいまでの影響力を感じますw

  どっちが正しいのか気になって仕方なかったので、本を取寄せたのが2004年のことです。 本の著者は Claude E. Shannon と Warren Weaver なので、もう解決♪ なんて思いました。 Wiener がどこから出てきたのか知らないけど、手書きか何かで、もしくは劣化したコピーで、 誤記なり誤読があったのだろう、などと邪推したりもして。
  で、パラパラめくって斜め読みすると(なにさまずっと数学的な理論展開です><)、 appendix の前に7行の謝辞がありました(p.115)。 最初の3行半で4人の人物をあげ、残りの3行半を使って Professor N. Wiener は 優雅な解決策を見出すきっかけになったと述べています。
  えええ〜〜〜?!?! ただこれだけのことで Shannon-Wiener の指数などと呼ぶものでしょうか。 何かもうひとつ、重要な出典があるのかもしれません。 エントロピーを扱った論文を生物の多様性の解析に使おうと最初に考えた人物です (いやぁ、でも、Professor N. Wiener じゃなさそうですがw)。
  で、結論が見いだせないまま今日に至ります(というか、それ以上深入りしないまま ^^;)。 ここ数年は Wiener も Waever もつけず、単に Shannon の指数としています。 式の出典は Shannon & Waever (1949, 1998) とすれば良いかと (論文の発表は単名で1948年のことですね)。

  ところで、余談があります。 どこかほかでも書いた記憶がありますが、今のところ復活できていないコンテンツみたいです ^^;
  Shannon の H' にはいくつかバリエーションがあるんですが、 クライアントからそれをハッキリ指示されないことが多いんです。 で、こちらから聞くわけですw 対数の底は何を使いますか? と。
  えっ?! ってのが今まで大体のリアクション。明らかに予期していなかった感じで、 発注者との打合せももちろんしていないわけですw  じゃあ bit でつくりますから、あとで調整してください。と言うのがこれまでの大方のパターンです。 どこかのセルに底を絶対指定して入れておかないと、ちょっと面倒くさいことになりますw

first update 01 September 2016

  1. 木元 新作 1976 動物群集研究法 I. 多様性と種類組成. 共立出版株式会社. pp.192.
  2. Shannon, Claude E. & Warren Weaver 1949, 1998 The Mathematical theory of Communication. University of Illinois Press, Urbana and Chicago. pp.125.
  3. Whittaker, R.H. 1970, 1975, 宝月 欣二(訳 1974, 1995) 生態学概説. 生物群集と生態系(第2版). 培風館. pp.363.
  4. クロード・シャノン Wikipedia 日本語版(最終更新 2016年7月10日 (日) 08:27 by UTC)