右旋性と左旋性

dextro-rotatory and levo-rotatory

  1988年、大学で荻野珍吉先生の有機化学を履修していました。 師の教えに曰く、世の有機化合物はすべて DNA の産物である。 自然に産する有機化合物がすべてD体なのは、DNAが右巻だからだ。
  これは学生向けの多少キャッチーにアレンジされた言かもしれません。 L体も生物の体内に存在することがわかっているほか、 DとLが必ずしもその向きのらせんを表しているわけでもありません。
  で、DNA。一般的な二重らせんの図(B form DNA)は、 ぼくには反時計回りにねじれているように見えますw  右巻ぃ?? 何でぇ?? どこに視点を置くかで生じる見え方の違いなんですね ^^;
  表題の levo-rotatory は有機化学の鏡像異性体の用語から拾ってきました♪  環形動物や軟体動物の分類学では sinistrally が dextrally の対語として用いられています。

  さて。らせん状の生物といいますと。
  まず圧倒的に種類の多いのが巻貝。右巻の殻が多いのですが、左巻のものもいます。 貝殻の空き家にすむヤドカリ類のおなかも、右にくるんとまがっています。 刺胞動物には巻貝に類似したキチン質の殻を作ってヤドカリ類と共生するものがいます。 ウミヒドラ科のイガグリガイ Hydrissa sodalis (Stimpson 1859)(岡田ら 1965 184)や ウメボシイソギンチャク科の Stylobates aeneus Dall 1903(Brusca Brusca 1990 242) ほか数種(内田 楚山 2001 35, 81)などです。 底生有孔虫には巻貝型の殻 test をつくるものが多数知られています。
  巻貝つながりで、ウミウシ類や他の複数種の巻貝類では、 リボン状の卵のうをくるくると渦巻き状に産み付けるものがいます。ソデボラ科の Tibia insulaechorab Roding 1798 はらせん状の産卵床をつくります(Debelius 1996 24-25)。 こうした産卵行動は自由生活を送る他の無脊椎動物にも見られます。 下の写真は千葉県勝浦市興津の海岸で撮影したもので、親御さんの身元不明です。
  ミステリーサークルのような産卵床を作るアマミホシゾラフグの行動がテレビ番組でも紹介されましたが、 行動の原理は同じところにあるかもしれませんね。

  ウミカラマツ科のネジレカラマツ Cirrhipathes spiralis (Linnaeus 1758) は群体の途中でねじれて、巻く向きが変わることもあるみたいです。近縁 (?) の ムチカラマツやエダムチカラマツも、弱くねじれているように見えます。
  ケヤリ、カンザシゴカイ類とホウキムシ類のエラは、左右セットで鏡像対照に巻きます。 スゴカイイソメのエラはらせん状に枝が出て房のようになります。 ウズマキゴカイ類は棲管の右巻、左巻で属分類が異なります(Fauchald 1977)。 タマシキゴカイやギボシムシ類は、棲管の片方に渦巻き状に擬糞を積み上げます。
  生時はまっすぐ伸びていても、ホルマリン固定の仕方がまずいと体がコイルしてしまうのは、 多毛類や他の蠕虫型の無脊椎動物で割とよく見られます。 縦走筋がよく発達しているからだと思うのですが、標本を解剖しにくくなっちゃうんですよね ... orz
  刺胞動物の刺胞は毒液を獲物に運ぶチューブが、カプセルの中でコイル状に収納されています。また、 星口動物の消化管やユムシの腎管は体幹内でクルクル巻きになっています(Stephen Edmonds 1972)。 このあたりは機能的に収納するための収斂かもしれません。
  被子植物ではツルを伸ばすものがありますが、右巻、左巻と種によって別れる場合と、 同種内でも区別のないものがあるみたいですね。 葉の付き方を葉序、花の付き方を花序と呼び、刺胞動物の枝の分岐の仕方やポリプの付き方に転用されています。 輪生葉序はちょっとらせん状に見えないこともないですw
  ヒトのつむじに左右の過多はないとのことで、つむじ曲がりとはよほどの差別じゃないかと思うのですが、 ある小さな特定集団内で多数派が少数派を(もしくは権力のある方がない方を)圧迫するのは、 世の常なんでしょうか。不毛です。

  ふつう図鑑類では、巻貝類のスケッチや写真を載せるとき、殻頂を上に、殻底を下に、 そして殻口がこちらを向くようにします。殻口が右側にあるものを右巻、その逆を左巻と呼びます。
  ところが、ウズマキゴカイ類の場合、中央かららせん状に外側へ巻いた棲管の開口部が右に開くものを sinistrally、その逆を dextrally と呼んでいます。
  これも視点の違いなんすかね ^^;

  L-メントールは海産無脊椎動物の麻酔に使えます。 水溶性がないので、 結晶をシャーレのなかでつぶしていかないといけませんが、 効きすぎると標本が弛緩してだら〜〜んとしてしまうので、 ちょっとずつ様子を見ながら、根気よく作業します。ついじれったくなって エタノールに溶いて滴下したら、あっさりと適量オーバーしたりします><  きっとホントはもっと少量でも効くんじゃないのかなぁw
  で、D-メントールは麻酔として使えないみたいです。不思議なものです。

first update 01 September 2016

  1. Brusca, Richard C. & Gary J. Brusca 1990 Invertebrates. Sinauer Associates, Inc. Publishers. pp.922.
  2. Debelius, Helmut 1996 Nudibranchs and Sea Snails. Indo-Pacific Field Guide. IKAN-Unterwasserarchiv. pp.321.
  3. Fauchald, Kristian 1977 The Polychaete Worms, Definitions and Keys to the Orders, Families and Genera. Natural History Museum of Los Angeles Country, Science Series 28. pp.188.
  4. 岡田 要, 内田 清之助 & 内田 亨 1965 新日本動物図鑑 (3 volumes). 北隆館.
  5. Stephen, A.C. & S.J. Edmonds 1972 The phyla Sipuncula and Echiura. Trustees of the British Museum (Natural History), 717. pp.528.
  6. 内田 紘臣 & 楚山 勇 2001 イソギンチャクガイドブック.TBSブリタニカ. pp.158.
  7. 光学異性体 Wikipedia(最終更新 2015年10月10日 (土) 07:00 by UTC)
  8. 右巻き、左巻き Wikipedia(最終更新 2015年9月21日 (月) 12:26 by UTC)
  9. Nucleic acid double helix Wikipedia(last modified on 23 August 2016 at 17:32.)