Ruditapes philippinarum (Adams & Reeve 1850)

アサリ

Japanese carpet shell, Japanese cockle, Japanese littleneck,
baby neck clam, Filipino Venus, Manila clam,short neck clam, steamer clam

軟体動物門 二枚貝綱 異歯亜綱 マルスダレガイ目 マルスダレガイ科

intertidal zone, sandy-muddy bottoms
Obitsu River Mouth Flat, Kisarazu, Chiba, Japan
photo by Kayane Lab. with Kazuyuki Yamada, 08 May 2005
Sony Cyber-shot DSC-P100 & Marine Pack MPK-PHB

Venus philippinarum* 1 [basionym] Adams & Reeve 1850

Tapes denticulata* 2 Sowerby 1852

Tapes semidecussata Reeve 1864

Venerupis semidecussata* 3 相良 1952 41-42 figs.1-6.

Tapes (Amygdalum) japonica アサリ* 4 吉良 1954

Tapes (Amygdalum) philippinarum アサリ 波部 伊藤 1965 139 pl.47-2,3.

Tapes japonica Deshayes 1853, Smith Carlton 1975; 1989 562.

Paphia philippinarum* 5 Sakai 1976 569.

Ruditapes philippinarum アサリ* 6 波部 1977 264 pl.55-5,6. 波部 奥谷 1983 173 pl.130. 奥谷 1994 152-153, 332-333. 横川 1998 121-132. 奥谷 2000 1013 pl.504-50. 伊藤 2002 134-138 fig.1. 関根ら 2006 229-240. 奥谷 2006 66-67, 69. 尾添ら 2006 465-471. 松川ら 2008 137-143. 藤井ら 2011 143-152. 重田 薄 2012 1-19. 長澤 2012 25-40.

Tapes (Ruditapes) philippinarum アサリ 内田 1979 322 fig.1138.

Tapes philippinarum Paillard et al. 1989 235-241. Borrego et al. 1996 480-484.

Tapes (Ruditapes) philippinarum Kozloff 1999 282.

Ruditapes philippinarum Paillard Maes 1994 137-146. Paillard et al. 2004 249-262. Çinar et al. 2005 128. Masu et al. 2008 41-47. Crocetta 2011 251 table 1, 254. WoRMS (30 Jul 2015) .

Venerupis philippinarum アサリ 山本 2004 17-25.

Venerupis philippinarum Gillespie 2007 1134. Lum 2011 1-71. Lipej et al. 2012 245. Marine Invative Species. WoRMS (01 Dec 2012).

* 1 Venus Linnaeus 1758 カブトノシコロガイ属, type species: Venus verrucosa Linnaeus 1758(波部 1977 p.245)

* 2 Tapes Megerle von Mühlfeld 1811 リュウキュウアサリ属, type species: Venus literata Linnaeus 1758(波部 1977 p.263)

* 3 Venerupis Lamarck 1818, type species: Venus perforans montagu 1803 = Venus saxatilis Fleurial de Bellevue 1802(波部 1977 p.269)

* 4 Amygdalum Megerle von Mühlfeld 1811 ヌリツヤホトトギスガイ属, type species: Amygdalum dendriticum Megerle von Mühlfeld 1811(波部 1977 p.60), ? Amygdala Römer 1857, type species: Venus decussata Linnaeus 1758, syn. as Ruditapes波部 1977 p.264)

* 5 Paphia Röding 1798 スダレガイ属, type species: Paphia alapapilionis Röding 1798 = Venus rotundata Linnaeus 1758(波部 1977 p.264)

* 6 Ruditapes Chiamenti 1900 アサリ属, type species: Venus decussata Linnaeus 1758(波部 1977 p.264)


分布,生息環境

 北海道以南,潮線下(吉良 1954), フィリッピン,シナ,台湾,朝鮮,九州,四国,本州,北海道,千島,樺太,沿海州, 近年はハワイ・カリフォルニア・カナダなどで移入され増殖, 潮間帯から水深10mぐらいの砂泥底(波部 伊藤1965). サハリン以南,日本全土,中国沿岸,台湾,潮間帯~水深20m,砂礫泥底(波部 1977). 樺太~九州,朝鮮,台湾,中国,内海内湾の潮間帯から10mまでの砂礫泥底, 稚貝は足糸で砂礫に付着(内田 1979). 日本全国,朝鮮半島,中国大陸,淡水の影響のある内湾潮間帯砂泥域にハマグリ Meretrix lusoria などと一緒にすむ(波部 奥谷 1983). 周知の二枚貝,日本全国の内湾に多産,アメリカ西岸に移入し baby neck clam,short neck clam, Manila clam と呼ばれる(奥谷 1994). サハリン,北海道から九州,朝鮮半島,中国大陸沿岸,潮間帯中部から水深10mの砂礫泥底 (奥谷 2000),フィリピンには分布しない(奥谷 2006).
  カリフォルニア,湾内の泥底に普通,日本からの移入(Smith Carlton 1975; 1989). カナダのジョージア海峡,バンクーバー島西岸,ジョンストンおよびクイーンシャーロット海峡, ブリティッシュコロンビア州北部フィヨルド群に移入,北西太平洋起源,水産物により,定着 (Gillespie 2007). ブリティッシュコロンビア州のジョージア海峡では varnish clam (Nuttallia obscurata) * 7とともに最も個体密度が高く,1930年代 Ladysmith Harbour で初めて マガキとともに("hitchhiker species")移入,ジョージア海峡およびバンクーバー島西岸から カリフォルニアにかけて広まった(Lum 2011).
  1983年に Grado Lagoon に移入したアサリが Gulf of Trieste の他の地域に広まり,スロヴェニアでは Dragonja River 河口干潟で1993年に初めて確認された(Lipej et al. 2012). トルコの沿岸ではエーゲ海から2001年に報告があり,定着に成功,起源は太平洋,水産物として移入, 軟泥堆積物中に生息,水深レンジは1-10m(Çinar et al. 2005).
  フランスの大西洋岸では1977年から養殖されている(Paillard Maes 1994).

  小作貝塚(船橋市 1983),良文貝塚(香取市 2016)から出土.

  博多湾では赤潮や夏季成層による酸欠で死んだマハゼやホトトギスガイなどとともに打上げられるが, 酸素の豊富な和白干潟前面ではアサリを含むベントスの個体密度が高い(逸見 2002).
  備前海4定点で水深5mの海水をポンプにより500L採水して浮遊幼生の調査(2004年4月~2009年3月), および干潟の観測点で稚貝調査(2007年5~12月)を実施,幼生の最大密度 3190個体/m3, 出現ピークは6~7月と10~11月の年2回,稚貝の最大密度 7539個体/m2,ただし1週間後に 520個体/m2まで減少(俵積田ら 2010). 東京湾内65測点で浮遊幼生の調査を2001年8月に3回実施,水温21~28℃,塩分17~33, 幼生は全測点に出現,最大密度 1690個体/m3,殻長 90~240μm, 生まれた場所からそれほど分散していないと想定され, カイアシ類,夜光虫,ミズクラゲとは出現密度に負の相関を示した(粕谷 2005).
  アサリ漁場の底面は潮流で 1cm/hr 以下,台風の波浪で 3cm/hr 変動,浸食と堆積を繰り返し, 夏季干出時には37℃を超える(山本 2004). アサリの生息数理解のためのアサリ指数(羽熊 2003, 2008).
  アンモニアを排泄するため,密度が高いと周辺のアンモニア濃度が高くなるおそれがあり, 96時間半数致死濃度は数mg/L,低酸素適応の高い二枚貝には硫化水素の急性毒性は現れにくく, T-S 10mg/L以上3日間で80%以上へい死,還元泥が巻き上がるとかなり危険(日向野 2004). 溶存酸素1ppm以下の海水では2日経過後にへい死が始まり,4日以上継続すると大量にへい死, 96時間暴露後の半数致死濃度は鉛14mg/L,亜鉛16mg/L,陰イオン界面活性剤18mg/L,また, 硫化水素23mg/Lの場合24時間で7個体中2個体,48時間で残り5個体すべて死亡(成松 高見 2006).
  海水 20L 中の渦鞭毛藻 2.0×102 cells に殻長30mm超のアサリ8個体を投入,24時間で80%, 48時間で98.5%の赤潮を除去,水柱 1m3 あたり400個体のアサリが必要(田中 大塚 2000).

* 7 Nuttallia obscurata (Reeve 1857) ワスレイソシジミ(奥谷 2000). ただし,Nuttallia japonica (Reeve 1857) に対してイソシジミ(奥谷 2000), または,ワスレイソシジミ(波部 1977),Nuttallia olivacea (Jay 1857) に対して イソシジミ(波部 1977).

生態

  懸濁粒子を入水管から取り入れ鰓で濾しとる濾過食性,デトライタスやプランクトンを餌料とする (伊藤 2002). プランクトンを利用した濾過摂食を行うが,付着珪藻が占める割合も多い(日本ベントス学会 2003). 水温25℃以下,ほぼ無酸素でも4~5日は無機呼吸を維持して生残可能(日向野 2004).
  雌雄異体(伊藤 2002).産卵期は春秋2回,寒冷地では夏1回(奥谷 1994), 東京湾以南では春と秋の2回,北海道では年1回(伊藤 2002).有明海緑川河口干潟 における1998年の新規加入群は4回,この1年間に 9つのコホートが確認された(堤ら 2002).
  卵径は約60μm(伊藤 2002),受精卵は24時間でベリジャー期に,沈着期の大きさは殻長 200~230μm,殻高190~220μm(奥谷 1994).幼生は水温12~30℃で正常に発生,成育には 20~25℃が最適,塩分は25以上が望ましい(成松 高見 2006).幼生は上げ潮によって 潮間帯に運ばれ,下げ潮時に流れのずれや歪みを生じやすい場所に着底する(柿野 2002). 浮遊期間は約2週間(松川ら 2008).殻長9mm以下の稚貝は足糸で地物に付着, 30mmまでに足糸を失うが,礫底と泥底に沈着したものは40mmほどまで残る(奥谷 1994).
  生物学的最少形は佐世保湾で殻長 15mm,厚岸湾では雄22-27mm,雌30-35mm,サロマ湖では雄24-26mm, 雌26-28mm(伊藤 2002). 殻長 4cm,殻高 2.7cm(奥谷 2000).
  殻の表層に2種類の成長構造,そのうち distinct increments は2日ごとに形成され, 稚貝28個体における確実度係数は R2 = 0.98(Masu et al. 2008), カガミガイ を参照.

  徳島県鳴門市粟津港の顕著に丸みを帯びた個体群は,アイソザイム分析の結果地域集団程度の 遺伝的分化水準(横川 1998). 生育に適していない場所では殻が丸みを帯び(丸型指数が高い),千葉県盤洲干潟では沖合ほど 肥満度が高く丸型指数が低く,流速と肥満度には正の相関がみられる(柿野 2002).

漁獲変動

  近年主要産地で漁獲量が激減,諸外国からの輸入が激増し,国内産地間の輸送が無秩序に行われている (五嶋 2002). 全国の漁獲量は143,964t(1943年),160,424t(1983年),二度のピークの間は10万t前後,1986年以降 減少が続き,2000年には35,000t(伊藤 2002). 総漁獲量1960年代10万トン,1980年代14万トン,1984年から減少し,1994年には5万トン, 昨今は5万トンを輸入(松川ら 2008).
  千葉県の漁獲量は1960年代後半に7万トン超,その後漁場喪失などで減少し1998年には8,000t (鳥羽 2002). 漁場の埋立による漁獲量の減少は1971年に始まり,1981年以降1万トン台(松川ら 2008). 1979~2000年に千葉県北部でアサリの死亡を伴う青潮の発生は14件(鳥羽 2002).
  浜名湖では1960年代 1000~2000トン,1980年代 5000トン,1990年代 3000トン(松川ら 2008).
  伊勢湾,三河湾は変動が激しく,1960年代から現在まで0.6~2.3万トンの間を増減(松川ら 2008).
  瀬戸内海では1960年1万トン,1985年4万トン,1987年から減少,1991年以降5000トン前後 (松川ら 2008). 山口湾では昭和39~63年に4000~8000トンで変動,以降減少し,平成15年以降漁獲されず, ナルトビエイの食害やカキとの競合などの原因が推測されるが結論に至らない(尾添ら 2006). 周防灘では1985年4万トンをピークに,2009年53トンに激減,埋め立てによる干潟の消失は1.8%に過ぎない (重田 薄 2012).
  大分県番匠川河口干潟では1994年に,それ以前の年産100トンから1トン未満へ急減, アオサ類の大発生による底質の嫌気化と硫化水素の発生がその原因と考えられる(成松 高見 2006).
  熊本県の漁獲量は1977年65,273tをピークに減少,近年は1000~2000t(中原 那須 2002). 有明海の漁獲量ほとんどを熊本県が占め,1970年までほぼ2万トン,1975年以降6~8万トン, 1978年から減少し,1990年以降1万トン未満(松川ら 2008). 気象の影響などで春発生群の変動が激しく,資源が安定しない一因となっている(中原 那須 2002).
  1984年以前は埋立が,1984年以降は過剰漁獲努力が,漁獲量減少の最大の要因(松川ら 2008). 1987年以降の漁獲量激減は熊本県の漁獲量減少を反映,共通要因ではなく各水域固有の要因が関与 (石井 関口 2002). 有明海では乱獲,底質悪化,浮遊幼生の減耗,ナルトビエイの食害,ニホンスナモグリとの競争圧, 三河湾では温暖化と青潮,乱獲,東京湾では冬季の衰弱,波浪のかく乱による死亡, 全国的にはパーキンサス原虫の感染による産卵能力の低下,などの可能性を指摘, 貧酸素と青潮は漁獲量の減少より変動をもたらす要因(松川ら 2008). 環境アセスメントの誤った評価がベントスに及ぼす影響(逸見 2002), 河川整備や環境管理には適切な対策が求められる(成松 高見 2006).

  種苗の受け入れは千葉県が圧倒的,主要な供給は熊本県と愛知県だったが熊本県では大きく減少, 全国的に地場の生産量が少なく種苗に依存しているが,十分に供給されなくなったため漁獲量が減少した (日向野 2004).
  過去の放流は在来個体群に対し遺伝的攪乱を与えるほどではなかった(関根ら 2006). 宮城県石巻市万石浦の潮干狩り用アサリは,主に中国の港から船により輸出,下関経由で陸送され, 中国産および北朝鮮産, サキグロタマツメタシナハマグリ を含む20種以上の生物が混入したまま放流される(大越 2004).
  自然に増えるものと考えられてきて資源管理に対する意識が希薄,獲り過ぎてしまう傾向があった (伊藤ら 2009).

  カナダのジョージア海峡における2008年の漁獲量は 1300t,700万ドル(Lum 2011).

共生,被食,毒化

  1987年ブルターニュ北西でアサリが大量死,殻内面の外套線と外縁の間に褐色のコンキオリンが沈着する 形態異常からBrown Ring Disease (BRD) ,その病原体はVibrio sp.,Vibrio P1, あるいは VP1 と呼ばれた(Paillard Maes 1994). Vibrio tapetis Borrego et al. 1996は,1989年にフランスで,また,1993-94年には スペインから報告され(Borrego et al. 1996),これまでイギリス,アイルランド, イタリアからも天然/養殖のアサリと Ruditapes decussatus * 8a に発生したが, アサリの原産国である日本では報告がない(Paillard et al. 2004). Vibrio tapetis の菌株はフランスの養殖アサリと天然の Venerupis aurea * 9 および Cerastoderma edule* 10 から抽出された(Borrego et al. 1996).
  2008年4~7月兵庫県の養殖アサリが大量死,ブラウンリング病(BRD)が疑われ,検査の結果 V. tapetis と同定,分離菌を接種した貝は10-20%が死亡,33-63%にBRDを発症 (Matsuyama et al. 2010). 愛知県では知多半島2漁場および渥美半島1漁場のアサリを用いてPCR検査,貝殻形成に異常のあった 6個体中5個体で陽性,発症率は10%以下,1漁場では発症未確認(岡本 平井 2009) 平成21年度以降継続的に検査を行っているが,25年度は殻の形成異常が認められた 358個体のうち48個体についてPCRを実施し,すべて陰性であった(横山 山本 2013).
  BRD発症過程を7ステージ19指標に分類(Paillard Maes 1994). BRDに似た症状は酸素の過飽和や,カキに寄生する Ostracoblabe implexa Bornet & Flahault (菌界 incertae sedis)でも知られている(Paillard Maes 1994).
  千葉県水産試験場富津分場ではアサリなど二枚貝の種苗生産試験において,しばしば幼生の大量死が発生, その原因菌は既知種に該当しない Vibrio sp.(鳥羽 2001),ただし,V. tapetis の出典は参照されていない.

  スペイン北西部の海岸のアサリから分離された菌株より Aliivibrio finisterrensis が新種記載された(Beaz-Hidalgo et al. 2010).

  パーキンサス原虫 Perkinsus(アピコンプレックス門)は貝類に感染し,1987年にスペインで Tapes decussatus* 8b を大量へい死させ, その後大西洋や地中海沿岸のアサリ類に,1997年には大韓民国で,1998年には日本でアサリへの感染が報告された (浜口 佐々木 薄 2002). 日本のアサリには P. olseni Lester & Davis 1981 および P. honshuensis Dungan & Reece 2006 の2種が知られる(長澤 2012).

  昭和17年春,昭和24年3月,浜名湖産アサリによる食中毒で多数の死亡者, 昭和23年夏豊橋産アサリで麻痺性貝毒中毒,昭和27年柳川産アサリの中腸腺から Candida pelliculosa を含む約10種の酵母を検出,腹腔内投与したマウスの一部が死亡(中島 1955). 浜名湖アサリ貝毒事件Wikipedia).
  渦鞭毛藻 Alexandrium catenellaA. tamarenseGymnodinium catenatumPyrodinium bahamense var. compressum などによって毒化され, フグ毒に似た麻痺性貝毒症状を引き起こし,サキシトシンの致死量は0.5mg(井上 2006 96).

  東京湾内浦安海岸に生息する Convoluta japonica Kato 1951*11 が赤潮に似た状況のもと養殖アサリを大量へい死させた (岡田ら 1965 311,内田 1979 116,長澤 2012 28).
  Ancistrum edajimanum Oishi 1978(繊毛虫門),Marteilia sp. および Marteilioides sp. (ケルコゾア門),ヒトツアナヒラムシ Stylochus uniporus Kato 1944(多岐腸目), Cercaria pectinata Huet 1891 および C. tapidis Faust 1924(吸虫類), 複数種のカイアシ類などがアサリの軟体部に寄生する(長澤 2012). カイアシ類 Ostrincola koe が外套腔内に寄生する(長澤 2005 27-29). アサリの外套腔内にカイヤドリウミグモ,オオシロピンノ Pinnotheres sinensis Shen 1932,マルピンノ P. cyclinus Shen 1932, カギツメピンノが寄生する(Sakai 1976 p.569,張ら 2012,長澤 2012).

  セグロイソメ科のアカムシは日本南西部の潮間帯砂質底に生息,おもに二枚貝を専食, アサリに対する嗜好性が強く,アサリが少ない環境ではムラサキイガイの選択性が高くなる(林 1997).

  宮城県鳴瀬町の潮干狩り場では,2004年にサキグロタマツメタによる アサリの大規模な食害が報じられた(大越 2004). 良く知られるアサリ捕食者ツメタガイ類,キセワタガイ,ヒトデ類,エイ類,スズガモの他,カレイ類など魚類や エビ,カニ類もアサリを捕食する(松川ら 2008). イシガニやガザミによる捕食の影響,クロダイ,ツメタガイやアカニシによる食害(藤井ら 2011).
  ヒトデ Asterias amurensis はアサリ養殖に大害を与え(奥谷 1994), 1953年には東京湾で,1982年には博多湾で異常繁殖して大きな漁業被害を与えた(本川 2001佐波 入村 2002).

  エイ類(トビエイ類),貝類(ツメタガイ類,キセワタガイ類等),鳥類(カモ類)等による食害が問題視され, 有明海ではナルトビエイ Aetobatus flagellum が集団で来遊し1日で数トンの食害を受けた(中原 那須 2002). ナルトビエイの摂食速度(尾添ら 2006). 有明海で漁獲されたアカエイ39個体の胃内容物を調査,空胃61.5%,胃内容物が認められたうち64.3%はカニ類,7.1%はアミ類, また,アカエイ1個体ずつを収容した2水槽にアサリ各5個体を入れて2日間観察,摂餌行動を観察できなかったため, アカエイは甲殻類を,ナルトビエイは貝類を好むと結論(金澤 2003). アサリの捕食が認められたナルトビエイ,クロダイを含む魚類20種余をリスト(重田 薄 2012).
  キョウジョウシギはフジツボ,死んだカニや二枚貝をつついて食べ,オバシギ, コオバシギはアサリやシオフキを丸飲み,オグロシギはゴカイ類のほか二枚貝も好んで食べる(石川 1985). 秋から冬,千葉県に飛来する数万羽のスズガモが1シーズンで数千トンを食害する(鳥羽 2002).

* 8a * 8b Venus decussata Linnaeus 1758 [basionym] = Tapes decussatus (Linnaeus 1758) = Ruditapes decussatus (Linnaeus 1758) ヨーロッパアサリ(奥谷 2006

* 9 Venerupis aurea (Gmelin 1791) ニヨリヨーロッパアサリ(出典未入手)

* 10 Cerastoderma edule Linnaeus 1758 ヨーロッパザル(出典未入手)

* 11 Convoluta japonica Kato 1951Symsagittifera japonica (Kato 1951) 珍無腸動物門無腸目(扁形動物門渦虫綱から移動)

first up date 15 April 2006; last modified 24 December 2017

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